日暮里のd-倉庫にて、東京ストーリーテラーの10周年記念公演「凜として」を観ました。

凛として

舞台は終戦から三年経った長崎県佐世保の小さな海辺の集落。夫・梶谷俊平の出征三日前に対面してそのまま祝儀を挙げた凛(りん)。義母・ソデとともに俊平の帰りを待ちますが、彼は未だ帰らず、安否もわからないまま。そんなある日、出征していた近所の村田吉松がシベリアから突然帰ってきます。ところが喜んで迎えてくれると思った妻の房子は叫び声をあげて逃げ出してしまうのです。実は、すでに吉松の死亡通知が国から送られていたため、家族・親戚が話し合い、房子は吉松の弟・定次と結婚していたのでした。逆上する吉松は、同じ部隊にいた哲とともに危なっかしいヤミ商売をしながら荒くれます。そのほか、僧侶のはずなのにお経をはっきり覚えていない謎の和尚や、戦時中に愛国の風潮のもと、家庭を壊され戦後売春婦にならざるを得なかった安子など、さまざまな辛さ・悲しみを抱えて生きる人々の物語が、一つひとつじっくり丁寧に描かれていきます。そんな芝居です。

佐世保の湾には、九十九島と呼ばれる、200以上の小島が織りなす美しい風景があります。絵を描くために東京から旅をしてきた青年・颯太は、終盤、集落の人々とその風景を観に行きます。それら島々のように、集落の住民たちも、一人ひとりがそれぞれに個性を持ちながら、人間愛に裏付けされた人生を歩んでいます。そんな彼らに戦争がもたらしたさまざまな悲劇。のしかかった運命を乗り越えていく原動力、それは愛だと、この物語は訴えているように思えました。

押し付けがましく戦争反対・平和を訴えるのではなく、実話をもとに終戦直後の集落の人々を描くことで、忘れてはならないことを呼び覚ます。そんな充実した舞台でした。